見たもの、いた人2021/09/11

先々週に引き続き、歯が死んでいるから寒川まで歯医者に行く。

空いている下りの電車に、高校生くらいの男の子と女の子が並んで座っていた。

彼らは2人ともかなりぐっすり眠っていたのだが、お互いに寄りかかることなくそれぞれが反対の方向に自由にバーンと飛び出してウトウトとしていて、若葉の芽吹きのようなエネルギーを感じた。朝の雨が過ぎて、最後の夏の日差しがちょうど降り注いでいたのでよりそんな雰囲気があった。他人の青春〜!

 

乗り換えの駅で、エスカレーターに乗った。

エスカレーターは屋外に設置されており、登り降りの2本の線は雨風に晒されないようにガラスで覆われ、エスカレーターの上はかなり密閉された空間になっていた。

自分の前に乗った人はたまたまデブだった。

デブの汗腺は久々の夏日に刺激され、汗臭さを発していた。

その状態で密閉された場所に乗るとどうなるか、そう、面白くなるのだ。

全ての空気はデブで濾過され臭いを持って二段後ろの私の元へ届けられる。

その状態が面白くて後ろに目を逸らすと、後ろのババアと目があって、視線だけで「臭いのはお前か??」と伝えるような顔をしていた。

耐えきれなくてちょっと笑ってしまった。

前に乗るだけでエンターテイメント、デブ。

私はガリガリだからデブは好きだ。

 

寒川駅を出ると、そこは秋で、金木犀の匂いが三層構造のマスクの隙間を縫って入ってきた。

歯医者は駅から20-25分くらいかかるのだが、定期的に金木犀が香り、たまに草むらから鈴虫が鳴いては今日の暑さが残暑であることを思い出す。金木犀の香りと鈴虫とアイス片手にシャトレーゼから出てくるカップルをみて、平和だなあと思った。自分がミステリー作家ならここで凄惨な事件を起こしたいと思うくらいだった。

 

歯医者が終わり駅に戻ると、前回の歯医者の日にオープンした奇抜な名前のパン屋と漂ってくる匂いと金木犀が合わさって良い状態になっていた。駅には有害図書をいれるポストみたいなのがあって、てんとう虫の形をしている。

「僕は悪い本しか食べられないよ」と書いてあった。たまたま摂氏174度を持っていたので、てんとう虫と同じ色だなと思った。